良くあるパロディです

タイバニが実はドラマで、
虎徹・バーナビーという役者さんが
演じているという設定です
パロディが苦手な方、
虎徹やバニーに中の人なんていない、
という方は閲覧をお控えください
































 涙で滲む視界のなかで、彼の穏やかな顔だけがはっきりと浮かんで見える。
 静かに、穏やかに笑っている。

「虎徹さん…」

 信じられない気持ちと、信じたい気持ちが胸の中でごちゃまぜになって、嗚咽となって吐き出されていく。
 彼の顔に幾粒もの涙が零れて、落ちていく。

「虎徹さん―――!」







「………はい、OKでーす!」

 その空気に呑まれて、予定よりもしばし遅れて、監督から声がかかった。
 緊迫していた現場は、自然と拍手に包まれた。

「すげーなぁ…おじさん、普通に感動したぞ」

 怪我に見せかけたメイクを施された虎徹は、バーナビーの腕に抱かれたまま、まだ涙目のバーナビーの頭を優しく撫でた。

 役者が本名―あるいは、芸名のまま、その役者をモデルにしたキャラクターを演じるヒーロードラマ。
 ベテランから新人、アイドルまで幅広い層を集めて企画されたこのドラマは、深夜枠にも関わらず高視聴率を弾きだしていた。
 特にベテラン俳優の鏑木・T・虎徹と、今話題の実力派イケメン俳優のバーナビー・ブルックス・Jr.の息の合ったW主演が好評だ。
 二人はこのドラマが初めての共演だったが、とても気が合った。
 二人は番組の宣伝も兼ねて、バラエティ等への出演から雑誌の取材など、常に行動を共にした。
 それだけでなく、プライベートでもよくどこかへ出かけたり、飲みに行ったりするようになった。
 思い返せば、この企画を聞かされてから約一年、公私共にいつも虎徹と一緒にいたような気がする。  まるで劇中の虎徹とバーナビーのように、本当のバディのようになっていた。
 最も、虎徹がバーナビーに対して思っている父性のような感情と、バーナビーが虎徹に寄せる想いとは全く違う。
 違うと、バーナビーは思っていた。

 撮影が終わり、今日は他に予定がない為、バーナビーは撮影所から直接帰宅することにした。
 夜はもう遅く、昼間よりもずっと寒い空気が駐車場に満ちていた。
 車に乗り込んだところで、助手席の窓を誰かが叩いた。

「よっ、お疲れ!」

 すっかりメイクを落として元通りになった虎徹が、窓の外で手を振った。

「途中まででいいからさ、俺も乗せてってくれよ。今日はもう終わりなんだ」
「アントニオさんたちと、飲みに行かないんですか?」

 確か、みんなでそんな話をしていた。
 バーナビーも誘われたが、明日の朝は別の仕事が入っていて早い為、辞退した。

「行こうと思ってたんだけどさ、お前が来ないって聞いてさ」
「え…」

 思わず聞き返してしまったが、虎徹は何も気にしないで言った。

「ちょっと、お前と話がしたくて」
「話、って…そんなに大事な話ですか?」
「いや、大事な話っていうか…今日、お前と話したかったんだよ」

 車を走らせながら、ハンドルを握る手が震えていないだろうかと気に掛ける。
 何かを期待して、ではなく、嫌な予感に震えるのだ。

「なんで今日、なんですか?まだ最終話の収録が丸々残ってますし、打ち上げもありますよ?」

 打ち上げは、今回協力してくれたスポンサーも呼んで盛大に行うのだという。

「ま、いいですけどね。僕もあなたに、聞きたいことがありましたから」

 信号待ちで止まっている間、ちらと虎徹の方を見る。
 頬杖をついてこちらを見つめていた虎徹と視線が絡まり、慌てて逸らした。

「何だ?バニーの方から言えよ」
「話がしたいって言ってきたのはそっちでしょう?」

 こういう時の虎徹はずるい。
 大切なことは大抵自分からは言わないし、相手の出方を窺ってから言葉を選んで話すような節がある。
 それがわかっているから、バーナビーは仕方なく、先に口を開いた。

「―…引退する、って聞きました」

 やっとのことで紡いだ声は、震えていた。

「なんだ、知ってたのか」

 虎徹がこのドラマを最後に、芸能界を引退するという話がバーナビーの耳に入ったのはつい先日のことだった。
 ネット上の根も葉もない噂などではなく、すでに一部の週刊誌の記者などは記事の準備をしているのだという。
 どうしてとか、いつから決めていたのかとか、バーナビーは何も聞かされていなかった。
 もっとも、常に一緒にいたとはいえ、ここ一年ほどの事なのだ。
 まだ付き合いの短いバーナビーに、そんな大切な話ができないのは、なんとなくわかる。
 けれど、それでも虎徹がドラマの終盤になっても何も言ってこないことに、少なからずショックを受けていた。
 付き合いは短いけれど、決して浅いものではなかったのに。
 浅くないと、思っていたのはバーナビーだけだったのだろうか。

「本当なんですね」
「ああ。実は明日、正式に記者会見するんだ」

 それは初耳だった。
 あまりに唐突に告げられた残酷な事実に、覚悟していたはずなのに、動揺する。

「…どうして、ですか?」

 声が震えるのを止められなかった。
 色んな思いが渦巻いて、それが爆発しないように唇を噛み締めた。

「どうしてって…まあ、一身上の都合っていうか、家庭の事情ってやつ?」

 虎徹の家庭の事情はあまり知らない。
 知っているのは、ドラマのように10歳になる娘がいることと、ドラマと違って、妻が健在であることとくらいだ。
 二人とも郊外の虎徹の実家で虎徹の実母と暮らしている。
 そちらの方で、何かあったということなのだろうか。
 詳しく聞きたい気持ちが抑えられないが、きっと虎徹はこれ以上の事は教えてくれないだろう。

「ずっと黙っててごめんな。つか、お前には隠してたんだけどな…だってホラ、お前ってそういうの聞くと、しんみりしちゃうだろ?」

 虎徹は冗談まじりに言ったが、全く笑えなかった。

「この仕事で最後にしようって決めたのは、この企画を聞いてからなんだ…なあ、俺がどうして、この業界に入ったか、って前に話したよな?」
「ええ…ヒーローになりたかったんでしょう?」

 以前、二人で虎徹の行きつけの店で飲んでいるときに、酔っぱらった虎徹が話してくれた。
 子供の頃の虎徹はヒーローに憧れて、ヒーローになりたいと夢に描くようになった。
 けれど、自分の憧れたテレビの中のヒーローは、皆役者が演じているもので、現実の世界にはそんな正義のヒーローなんて存在しないと知った時は酷く落ちこんだのだという。
 そこで、似たような仕事で警察になる道も考えたが、あくまで虎徹は憧れたヒーローになるべく芸能界へ足を踏み入れた。
 体を鍛えて、スタントが不要なように訓練もした。
 そんな虎徹が一躍有名になったのは、念願叶って戦隊シリーズのブルーを演じてからだった。

「このドラマの話を聞いた時さ、もうこれしかないって思ったんだよ。ヒーローになりたい俺が、本当にヒーローになった虎徹を演じる…最高の引退作だろ?」

 虎徹は嬉しそうに笑った。
 その眩しいくらいの笑顔を、バーナビーは直視できない。
 見たらきっと、見っとも無く泣いてしまう。

「楽しかったよ、この一年間…はじめはお互いの事よく知らなくて、ぶつかったこともあったけど、一緒に色んな仕事して、飲んで遊んで…本当に、楽しかった。最後に、お前に会えて良かったよ」
「だから、正式に引退発表する前に、お前と話をしておきたかったんだ。引退とかそういう話、抜きでも」

「虎徹さん…」

 必死にかみ殺している感情が、今にも溢れてしまいそうだった。

「…っと、ここまででいいや」

 丁度良いタイミングで、虎徹は車を止めさせた。

「ま、これで引退っていっても、会おうと思えばいつでも会えるからな。お前は忙しいかもしれないけど、連絡くれたらいつでも付き合うぜ」

 ぐっと親指を立てるいつもの仕草をして、虎徹は車を降りた。

「じゃあな。気を付けて帰れよ」

 虎徹は一度もバーナビーを振り返らずに歩いて行った。
 一方的に話すだけ話して…そう憤る気持ちはなかった。
 これはきっと、虎徹なりの優しさだ。

「っ…虎徹さん!」

 窓から身を乗り出して、虎徹を呼び止めた。

「ん?…おいおい、危ないぞ」

 虎徹は子供を叱るように優しく窘めた。
 呼び止めても何を言ったらいいかわからず、

「いえ…あの、虎徹さんも気を付けて」
「おう。おやすみ」
「おやすみなさい」

 虎徹の姿が見えなくなるまで、その後ろ姿を見つめていた。
 途中から、その姿が涙で滲んで見えなくなった。

「っ…」

 必死で押し殺していた感情が、一気に溢れてくる。
 悲しいのか、寂しいのか、よくわからない。
 ただ、今まで当たり前のように傍にあったものが、なくなっていく喪失感に、涙が止まらなかった。



 最後の撮影が終わったら、もう少しだけ虎徹と話をしよう。
 受け止めてくれなくてもいい。
 せめてこの気持ちだけを、彼に。









なんとか最終回に間に合いました

虎兎っていうか、虎←兎みたいな

パロディしだしたらそのジャンルは終わり…なんて
昔誰かが言っていましたが
タイバニ熱はまだまだ続きそうです、私は

この設定で、空月もやってみたいかも

お粗末様でございました