―…しまった

 そう思った時にはもう遅かった。
 大きく見開かれたバーナビーの瞳とかち合う。
 睨まれる、と思ったが、バーナビーはふいと視線を逸らせた。



   The one that shines there - side:tiger



(逸らされる方が堪えるな)

 虎徹は思わず溜め息が出そうになったが、必死でそれを呑みこんだ。
 隠すつもりはなかった、といえば嘘になる。
 ただ、本当に隠すつもりなら、指輪を外しておくだけでも十分だったはずだ。
 それをしなかったのは…今でも、友恵を愛しているから。
 ならば、バーナビーとのこの関係は何なのか、と問い詰められるのが怖かったのだ、きっと。
 友恵を愛しているのは変わらないが、バーナビーを愛しく思う気持ちも本当だ。

(最低だな、俺は)

 友恵がいなくなって、五年。
 新しいパートナーを見つけるには少し早い気がしていた。
 世間のことなど知らないが、少なくとも虎徹の中では。
 けれど、そんな事を気にする余裕のない相手に出会ってしまったのだから仕方がない、というのは言い訳だろうか。

(煮え切らないなぁ…)

 きっと向こうで、友恵も笑っていることだろう。
 そして、ほんの少しの寂しさと共に、虎徹の新しい幸せを祝福して背中をそっと押してくれるだろう。
 虎徹が逆の立場でもそうする。例えそれが、一年後でも一カ月後でも。
 頭では理解できるが、感情が追い付かない。

(優柔不断だな…今も、昔も)

 こういうことだけに関しては。
 このことに触れてこない、バーナビーに甘えていた。
 そう、聞かれないままならそれで良いと、バーナビーの意思に任せきりになっていた。
 けれど、こういうことは虎徹から言うべきだった。

(俺が悪いな、完全に)

 気付くのが、後悔するのが少し遅かった。
 いや、今なら間に合う。今なら、まだ。

 薄明りの中、アルコールに潤んだバーナビーの瞳がこちらに向けられていた。



to be continued…?









虎徹さん目線の、9話で語られた既婚者妻子持ちな件について

つづ…く…?