プライベート用の携帯電話が静かに着信を知らせた。
 会議中にもかかわらず、ユーリは部屋を出る。
 会議、といっても大した話し合いは行われていない。
 テロリスト―ジェイク・マルチネスの要求に従って行われようとしている、セブンマッチ。
 それを止めることができなかったシュテルンビルトの重役たちは、戦いの様子を、固唾を飲んで見守る他なかった。

「はい」

 静まり返った廊下で、声を潜めて応答する。

『やあ』

 画面に映し出されたのはキースだ。
 ジェイクによって、最初の対戦相手に指名された、スカイハイその人である。

『今、少しいいかな』

 すでにヒーロースーツに着替えており、あとはマスクをかぶるだけだ。
 スーツに身を包む彼は凛々しく、騎士を思わせるその勇敢な姿を見るのが、ユーリは一番好きだ。

「どうかしましたか?」

 ユーリは極力平静を装った。
 少しでも気を抜くと、不安な顔を晒してしまいそうになる。
 これから戦いに赴く彼に、そんな顔を見せたくない。

『いや、特別な用事があるわけではないんだが…君の、声が聴きたくて』

 画面越しのキースは、穏やかに笑っていた。
 そこからは、未知の能力を持つ強大な敵に対する不安も、恐れも感じられない。
 溢れる自信と決意に満ちていた。

『忙しいだろうに、すまない。実にすまない』
「いいえ。私もちょうど、貴方の声が聴きたかったところです」

 疲れているからだろうか、珍しく本音が口から滑り出た。

『ジェイクがそちらへ乗り込んだと聞いたよ。怪我はなかったかい?』
「ええ。ただ要求を突き付けに来ただけですから…それよりも、こんな事態になってしまって申し訳ありません」
『何を言っているんだ!これは逆に、チャンスと思わなければ!』

 キースの声には一点の曇りもない。

『探す手間が省けたということだ。私は必ず、奴に勝つよ。これ以上、奴の好き勝手はさせない。させない、決して』

 力強いキースの声は、ユーリの不安など一瞬で吹き飛ばしてくれた。
 キースの事は信じているはずなのに、もしも、という気持ちが拭いきれなかった。
 だがこうして彼を見ていると、そんな自分を恥ずかしく思う。

『だけど、少しだけ…戦いの前に少しだけ、君からも勇気が欲しくて』
「…そんなことなら、いくらでも」

 はにかんだように笑うキースの額に、画面越しに口付けた。

「ご武運を」
『ありがとう』

 そして、自然とお互いに唇を近づける。
 本当に触れ合っているかのように、柔らかい温もりがユーリの唇に触れた。

 こうして祈ることしかできない自分が歯痒い。
 だがキースならきっと、大丈夫だ。
 恋人の自分が信じなくて、誰が信じるというのだろう。
 通信が切れて暗くなった画面に、もう一度、祈りのキスを捧げた。



                 ― calling.









ジェイク戦前、キースに呼び出されるユーリ
乙女全開ユーリですね

空月が、アニメ開始時にはすでに付き合っている設定です
そしたらこんなシーンがあってもいいんじゃないかと