タイバニは、役者が同名のキャラクターを演じる実写ドラマ、
という良くあるパロディです

もう少し詳しい背景(?)は
以前上げた虎←兎の同様のパロを読んでいただければ…

そういったものが苦手な方、
キースやユーリに中の人なんていない!
という方は閲覧をお控えください
















 伏せられた瞼を、長い睫が縁取る。
 スタイリストがうっとりと彼の長い髪を整える。
 月明りのような白金の髪が、黒のリボンで引き締められる。
 手元の台本を見ながら、口の中でセリフを呟いている。
 時折、口の動きに合わせて、顔にかかる前髪が揺れた。

(ああ、君は本当に…)



「本っ当にキレイねー」

 キースの横で、カリーナが夢見心地で呟いた。
 一瞬、自分の心の声が外へ漏れてしまったのかと思った。

「あの歳で、なんであんなに肌が綺麗なのかしら?髪もつやつやだし、睫長いし、スタイルもいいし…」

 羨ましいところを挙げたらキリがないと、今度は溜め息をつく。

「ボクのお母さんが凄くファンなんだ。実際に会うのはこれがはじめてだけど…テレビで見るよりもずっと綺麗だね」

 普段はあまり、そういった事に興味がなさそうなパオリンまでもが彼に見惚れる。
 その隣で、イワンが何故だかわからないが、体を震わせた。
 若者たちがそんな会話をしているとは露知らず、ユーリ・ペトロフはいつものように、台本を読みながらその世界をじっくりと思案していた。



 ユーリと共に仕事をするのは久しぶりの事だった。
 ユーリとは、まだ駆け出しの俳優だった頃から何度も、ドラマや映画、舞台を共にしたことがある。
 そのうちプライベートでも会うようになり、やがて恋人と呼べる関係になった。
 随分とたくさんの時間を二人で過ごしたが、それも数年前に終わってしまった。
 それからは、仕事ですらたまに顔を合わせる程度で、連絡も取らないような関係になってしまった。
 ユーリの方が意図的に、キースを避けている。
 あんなことがあったのだから、仕方がないといえば仕方がないことだった。



「ねえ!」

 突然声をかけられて、キースは顔をあげた。

「ねえ、キースってペトロフさんと仲が良いんでしょ?せっかく今日来てるから、少しだけでもお話したいんだけど…一緒についてきてくれない?」
「ボク、お母さんからサイン貰ってきてって頼まれてるんだ!」

 カリーナとパオリンが眩しいほどに輝く笑顔でキースに迫る。

「いや、実は彼と一緒に仕事をするのは久しぶりで…最近あまり、交流がないのだ」

 すまない、と断ろうとしたが、

「そうなの?でもそれなら、これから収録は長いんだし、声くらいかけておいた方がいいんじゃない?」

 カリーナの言うことも一理ある。
 ユーリはどう思っているかわからないが、キースは変わらず彼のことを想っている。
 以前のような関係に、とまでは言わないが、せめて少しでも良くなればと思う。

「…うん、では少しだけなら」
「やったぁ!」

 少女たちは無邪気にはしゃぐ。
 彼女らの影で、イワンが小さく溜め息をついた。



 メイクを終えたユーリは、台本を片手にゆっくりと紅茶を飲んでいた。
 彼の部屋には様々な種類の紅茶の缶が並べられていたのを思い出す。
 ペットボトルや缶の、作られた香りのするものは好きではないと言っていたが、現場では仕方なしにそういったものを飲んでいる。
 新しく出たばかりのそれは、確かユーリがコマーシャルに出演していた。

「や…やあ、久しぶりだね」

 ユーリの元へ行くまでの短い間、必死になって考えた第一声は震えていた。
 台本を追っていた目がキースを捕らえる。
 一瞬、顰めるように目を細めたが、キースの後ろでそわそわとしている二人の少女を見て、目元を和らげた。

「お久しぶりです。また貴方と仕事ができるなんて、嬉しいですよ」

 にこりと笑顔を作って手を差し出した。

(敬語…そして、敬語と営業用の顔だ)

 握り返したユーリの手は、懐かしい冷たさだった。



 収録が終わり、忙しなく移動していくユーリを、キースは必死で追いかけた。
 今を逃したら、次に自然と話ができる機会は巡ってこないような気がした。

「待って!そして待ってくれ!」

 ユーリは一瞥をくれただけで、立ち止りもしない。
 迷惑など承知でユーリの細い腕を掴む。

「あの、すみませんが急いでいるので…」

 さすがにユーリのマネージャーが止めに入る。
 ユーリと共にいた頃のマネージャーとは変わっている。
 おそらく、二人の過去の関係など全く知らないのだろう。
 ただ、スケジュールに遅れが生じる事を、純粋に心配しているようだった。

「お時間は取らせませんから、少しだけお話を」

 なおも食い下がるキースに、ユーリは少しも表情を変えずに言った。

「…先に車へ行っていてください。すぐに済ませます」

 人気のないエレベーターホールに、ユーリと二人きりになる。
 しん、と静まり返り、張り詰めた空気が更に精度を増した。

「で、何の用ですか?」

 先に口を開いたのはユーリの方だった。
 よく通る声が鼓膜を揺らした。

「いやその…さっきはすまなかったね。君と話がしたいと、どうしてもとせがまれて」

 ユーリははじめ、何の話をされているかわからないようだった。

「ああ、さっきの…別に、何も気にしていませんよ」

 そんなことか、と溜め息をつかれた。
 ユーリが相変わらず多忙なことは知っている。
 それでも引き留めたのはこんな話をしたかったのではないが、口をついて出たのはそんな言い訳だった。
 言ってから、しまったと思った。
 ユーリは聞こえが良いだけの言い訳や、嘘をつかれる事を嫌う。
 案の定、ユーリは容赦なく踵を返した。

「そんな用事なら、私はもう行きますよ」
「それだけじゃない!その…君と、また長い間同じ仕事をするのが嬉しくて」

 それは素直なキースの気持ちだ。

「嬉しくて、つい。この機会に以前のように…とは言わないが、少しでも君と仲良くできたらと思う」

 キースの素直な気持ちとは対照的に、ユーリは次第に暗く、歪んだ笑みを浮かべた。

「随分と、都合の良い言い分ですね」

 冷たく言い放つ。

「貴方に、そんなことを言う権利があるとでも?」

 低い笑い声が響く。

「ユーリ、私はただ…」
「…裏切ったくせに」

 今にも泣きだしそうな声だった。

「違う…違う!あれは誤解だ!」

 必死の訴えも、ユーリにはただの言い訳としか届かない。
 無言で背を向けて、エレベーターに乗ろうとするユーリを追いかける。

「ユーリ!」

 閉まるドアを止めようとして、直前で手が止まる。
 一瞬、振り返ったユーリは憎しみを込めてキースを睨み付けた。
 けれどそれは、泣いているようにも見えた。



 行き場をなくした手を握り締める。
 無理やりにでも、止めるべきだっただろうか?
 けれど、真実をユーリに伝える術を、今のキースは持っていなかった。









お粗末様でございました

リンリンが好きなので
無理やりリンリン要素を捩じ込んでみました
リンリン可愛いよリンリン