正義の味方。
ヒーローなんて、吐き気がする。 「やあ、ユーリさん!」 爽やかな声に呼び止められる。 振り返るのも億劫だったが、ユーリは仕方なく声のする方へ視線を向けた。 屈託のない笑顔。 Tシャツ越しでもよくわかるほど、鍛え上げられた肉体。 ネクストの能力に奢ることのない、謙虚な姿勢がそんなところにも見て取れる。 キング・オブ・ヒーローと呼ばれる彼。 その名は決して名ばかりでなく、彼はプライベートでも完璧なまでにヒーローだ。 ああ、本当に…虫唾が走る。 「今回は本当にお世話になりました!ありがとうございます」 「…こちらこそ、お力になれて光栄です」 差し出された手を、一瞬ためらったあとに握り返す。 一瞬の間など全く気にした風もなく、スカイハイことキース・グッドマンは微笑んだ。 「それにしても、珍しいですね。あなたが訴訟だなんて」 ヒーローに関する訴訟を一手に引き受けるユーリが、キースと接する機会はほとんどない。 派手に暴れまわるヒーロー達に訴訟はつきものなのだが、彼は例外のようだった。 建物にも人間にも、被害を最小限に抑え、被害者たちにも誠意のある対応を。 全ヒーローに徹底されているべきことを、実際にやってのけているのは彼くらいのものだ。 だからこそ、気に食わない。 完璧なヒーローなど、いるはずがない。 「たまにはそういう事もあるということですよ」 キースはひとかけらの後ろめたさもなく答えた。 少なからず被害を出してしまい、訴えられたという事に彼は落ち込んでいたと聞いていたが、裁判中の彼の態度は堂々としたものだった。 最終的には原告側も納得のいく形で、キースに有利な方向の結果に終わった。 ユーリは仕事に私情を挟まないように徹底しているが、この結果は不思議であり不服でもあった。 ひとえに、被害者に対して終始誠意のある行動をみせた彼の、キング・オブ・ヒーローたる彼の魅力によるものだろう。 だからこそ、気に食わない。 完璧なヒーローなど、あってはならない。 ユーリの瞳が怪しく光る。 「しかし、驚きましたよ。まさかあんなにスムーズに進むなんて…ひとえに、あなたの人望のおかげですね。さすがはキング・オブ・ヒーローと言われるだけのことはある」 心にもない、薄っぺらな世辞が口をついて出る。 「とんでもない!まだまだ、若輩者ですよ」 本心から言っているからだろうか、謙遜も嫌味なく聞こえてくる。 耳障りだった。 かぶっていなければならない仮面が、崩れていくのがわかった。 いけない、と自制する声が遠くから聞こえた。 「…でしょうね」 唇の端だけ釣り上げて、冷酷に嗤う。 一変したユーリに、キースは目を丸くした。 「ユーリさん?」 「まだまだ若輩、というより…やはり、完璧なヒーローなど存在しない…いや、ヒーローなどやはり飾り物なのだと、改めて認識できました」 何を言われているのか、キースは半分も理解できていないだろう。 「こんなことになっても、あなたが揺るがない事には素直に感心しましたが…さて」 ぐい、とキースの胸倉を掴む。 驚きに見開かれたスカイブルーの瞳に、酷く暗い目をした自分が映し出されていた。 思わず目を背けそうになって…けれど、必死でそれを睨み付けた。 「それが、いつまで続くのでしょうね」 触れ合うほどの距離に近づけて、突き放す。 失礼、と形ばかりの挨拶をして背を向けた。 ヒーローなんて吐き気がする。 特に彼のような、一遍の曇りもなく純粋な、生粋のヒーローなんて。 そんなもの、この世界にあってはならないのだ。 何を思ったか、私はユーリさんの事をヒーロー専属の弁護士さんだと思っていたようです 恥 ず か し い … ! せめて上げるまえに気付けよっていう 一応差し支えない程度に手直ししました |